「イチからこの手で」通も“うなる”大将の技 名店蕎麦屋のこだわりに迫る
Streets magazine 編集部
2024年2月7日
手打ち・手のし・手切り イチから大将の手で作られる、食通をうならす蕎麦
午前8時。店の前を通ると、今日も大将が自慢の蕎麦を打ち始めていた。
ここは、大分市府内町にある『蕎麦処実和』。食通の間で言わずと知れた名店である。大将の谷藤匡さんは毎朝店のオープン前に、その日提供する蕎麦を打つ。蕎麦打ち部屋はガラス張りのため、通りからはその様子がよく見え、立ち止まって覗いていく人も多いのだそう。
大将の谷藤匡さん 職人の手仕事を通りから見学できる
大分市府内町の『蕎麦処実和』
このお店の特徴は、最初から最後まで、蕎麦づくりの工程の全てを大将が担うという点だ。香り高い北海道産の蕎麦の実を仕入れ、店で挽いて蕎麦粉にする。そして気温や湿度などの微妙な変化を捉えながら、その日のベストな配合で粉と水を合わせ、練り上げる。綿棒でのばし、美しく切りそろえていく。手間ががかる工程だが、これによりつるんとしたしなやかな蕎麦が誕生するという。
つゆにもこだわりがある。カツオ・あご・昆布でとった出汁に、“かえし”と呼ばれるみりんと醤油からなる秘伝のベースを合わせるが、その配合も季節などに応じて毎日変える。使用する醤油は、蕎麦文化が色濃い関東で使われるような辛口のもの。九州では甘口の醤油が料理に使われることが多いが、きりっとした味わいがこのお店のつゆのポイントだ。
「一番人気は『もりそば御膳』です。冷たい蕎麦って、蕎麦本来の味が一番わかるんです。」そう教えてくれたのは、大将と二人三脚で店を切り盛りする、奥様の実和さん。もりそばに舞茸の天ぷら、蕎麦の実おにぎりに鴨つけ汁など、なんとも盛りだくさんの御膳だ。
人気No.1の『もりそば御膳』1280円(税込) 蕎麦本来の味を楽しめる
夫婦で研究 そばを極めたお店に
蕎麦処実和は、もともとフグ料理や懐石などが楽しめる『朱雀』という日本料理のお店だった。蕎麦処へと生まれ変わったのは、約1年半前のことである。
「夫婦ともに、大の蕎麦好きで。いろんなお店を食べ歩いているうちに、大将が『蕎麦を打ってみよう』となったんです。そこからは全国の有名店を2人で巡り、研究に研究を重ねました。」
大将は、和食の料理人歴約30年。奥様もカフェバーを10年経営していたこともあり、2人は自分たちの舌と経験を頼りに猛勉強。そうして、現在のお店の味を生み出したのだそうだ。
カウンター、テーブル席がある店内
ちなみに店名の『蕎麦処実和』は、奥様の名前が由来だ。「お客さんにもよく店名については聞かれます(笑)蕎麦処、というのは決めていたんですけど、大将が『実和ちゃんの名前を加えると字画が最高だ!』とか言って、蕎麦処実和になりました。」笑いながらそう話す様子からは、蕎麦愛に加えて夫婦愛も感じられて、なんだかほっこりした。
高いリピート率 そば通がこぞって通う
お店には常連客も多い。1度食べると虜になるという蕎麦好きたちも、たくさんいるそうだ。
「蕎麦通の方が『こんなにちゃんとした蕎麦が食べられるところがあったんだ』と喜んでくださいます。自分たちが研究して提供してきたことは間違っていなかったんだって嬉しくなりますよね。」
そんな名店だが、“進化し続ける”という姿勢はいつだって忘れない。
「お客さんに飽きられないように、常に味は研究していきたい。関東の有名店のように、長く愛され続けるお蕎麦屋さんに、お店を育てていきたいです。」
あなたも大将の丁寧な手仕事を見に、そして味わいに、蕎麦処実和を訪れてみてはいかがだろうか。